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zoom RSS 中島敦全集 全3巻 2 作品について

<<   作成日時 : 2016/04/19 15:31   >>

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中島敦著 ちくま文庫
☆☆☆★★★

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幾つか心に残った、気になった作品について。

1巻
この巻には「山月記」を含む小譚が4編収録されているのですが、やはり中国小譚の「山月記」が圧倒的な出来栄えです。とは言え、スキタイ、古代エジプト、アッシリアと言った国を舞台にした3作品もとても興味深く、彼の興味範囲の広さを感じました。

他、中島敦自身の経験をもとにした作品が数編。

中でも親の仕事の関係で小学生〜中学生の間滞在していた、日本の植民地だった朝鮮時代を描いたものは、作者自身の事よりも、描かれている朝鮮人達の描写が深く心を打つものがありました。

1巻目で最も目をひく作品は、ロバート・ルイス・スティーブンソンを主人公にした中編の「光と風と夢」だと思います。

「宝島」「ジキル博士とハイド氏」で有名なスティーブンソンは、生まれつき病弱で、自身の健康のためにサモア諸島に移住してるんですね。恐らく中島敦は、そんな彼と自分の境遇を比べてとても親近感を抱いていたのだと思います。スティーブンスの心情は多分に中島敦自身の考えが反映されていたと思います。スティーブンスも病気が悪化し、44歳で急死しています。


2巻
この巻の前半は南洋譚で、南洋諸島の人々の生活、文化、人々の描写と並行し、やはり自分自身の内面が語られていきます。自分語りの中で、最も重苦しく、おそらくもっとも赤裸々に心情告白しているのは、女学校の教師時代をモチーフにした「かめれおん日記」で2巻に収録されています。


私が一番面白かったのは中島敦版「西遊記」の「悟浄出世」「悟浄歎異」の2編。これは沙悟浄が主人公なのですが、この作品の沙悟浄は生きている事の意味、この世が存在している事の意味を問いながら放浪を続けていて三蔵法師一行と旅をともにする事になります。

ともに旅をしながらそれでもこの世の意味は理解できないけれど、三蔵法師とその仲間たちの姿を見ながら「それで良いではないか・・」という心境に達するのですが、これもまた中島敦の心情を沙悟浄に託しているのがよくわかる作品でした。

2巻目の半分は日記と書簡が占めています。

3巻
この巻は晩年の作品群、それと生前中には発表されなかった作品が収録されています。

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ここに孔子の弟子の子路を描いた傑作「弟子」があるのですが、これ久しぶりに読んだら涙が出て仕方ありませんでした。電車の中だったのでちょっとやばかったです。(笑)

この巻で最も興味深かったのは、未完で、恐らく途中で続けるのを断念してしまったと思われる長編小説の「北方行」です。私が思うに中島敦自身はこの作品では2つに分離していて、虚無主義の男(折毛伝吉)と、ちょっと偏屈なインテリの若者(黒木三造)の2人の人物になっていると思いました。

この作品、わりと不愉快な内容で断筆してしまった後もどう続くのかあんまり知りたくないタイプの心理劇でした。長編としてのバランスが悪く、このままでは発表できなかったと思うけど、長編にチャレンジしようとしていた作品なので、作品の価値は高いと思いました。

以上、1ケ月かけて読んできましたが、やっぱりレベルの高いのは中国古譚なんですよね。このテーマの作品が最も面白いし、最もうまくまとまっています。

それでもそれだけではわからなかった、中島敦という作家の深みと複雑性を知る事が出来たのでとても有意義な読書時間でした。


この全集の表紙の絵は日本のゴーギャンと言われ、パラオで中島敦と親交のあった土方久功の作品です。展覧会もあったみたいですね・・。行きたかったな〜。

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
こちらにも...。
中島敦作品のコンプリート、おめでとうございます。
私もやはり高校時代に教科書で「山月記」に出会って衝撃を受けて、その後「李陵・山月記」(短編集)は読んだのですが、内容はほぼ忘れています...^^;
昔の教養人の知性の高さに驚かされます。今を生きる私たちもせめて読み継ぐ努力をしていかなくては...ですね。
とおりあえず本棚にあると思うので、久しぶりに「李陵・山月記」手に取ってみようと思います。
セレンディピティ
2016/04/25 10:40
セレンディピティ さん

こちらにもコメント有難うございます!
昔のインテリの作家さんって、必ず外国語、外国の文学、哲学なんかに造詣が深い上に、日本の古文、漢詩の教養もあってホント、凄いんですよね。

中島敦作品は大半が短篇で、なおかつ私小説なので、わりとサクっと読めました。
全部読んでみて、やっぱり「李陵・山月記」の作品が圧倒的に良く出来てます。どれも中国ものなんですよね。

ちょっとおせっかいですが(笑)、「山月記」以外を簡単に解説すると「名人伝」は老子の思想をベースにした不思議なお話、「弟子」は孔子の暴れん坊の弟子の子路を主人公にした作品で、孔子の生涯を知ってるるととても泣ける作品です。子路は論語の中でお笑い担当みたいになってて(笑)、異色の弟子です。
「李陵」は漢の武帝っていう第二の始皇帝みたいな人に酷い目にあわされた武将の悲劇です。

あんまり参考にならないか!?
ごみつ
2016/04/25 23:56
  わたしも
「弟子」
には心を動かされました。ひさしぶりに読んでみましょうか。

  だいぶ前ですが
「前漢が匈奴に勝てるようになったのは鉄兵器の普及ゆえ」
という説を紹介しましたね?最近読んだ本にこれとつながるような逸話があったのです。北宋の好敵手だった遼は、北アジアに鉄が流れ込まないよう気を遣っていた、と。遼が滅びるとその気遣いがなくなり、北アジアで覇を競っていた各国は鉄兵器を使って激しく抗争し、その抗争の中からチンギス・ハーンが現れた……・

  この話が本当ならば、そろそろ蒙古が勃興しようかという時代になっても、北アジアでは鉄が貴重だったということになります。私には信じられませんが……
だぶるえんだー
2016/05/05 20:31
だぶるえんだー 様

こんばんは!
コメント有難うございます。
「弟子」是非、久しぶりに読んでみて下さいね。実は最近、「論語」の現代語訳を読んだところだったので、あらためて心にグっと感じるものがありました。

「前漢が匈奴に勝てるようになったのは鉄兵器の普及ゆえ」のお話、よく覚えてますよ!
前のブログがなくなっちゃたので何の記事に書いていただいたのかが思い出せないのですが、ずいぶん前に見た漢の武帝のドラマでも同じ見解だったんですよね。

遼のお話ですが、以前、芸大美術館で開催された「契丹(遼)展」に行った事があって、今、展覧会のカタログをざ〜っとチェックしてみましたが、鉄の事には触れてないみたいです。

余談ですが秦の始皇帝陵からクロームメッキされた剣が出土して話題になってましたよね。実は古代にも進んだ技術が開発されていたのに、科学的な理由がわからなくて伝承されず、偶然の一発芸で終わった・・っていう説が有力みたいです。

こういうのって本当に面白いですね。
ごみつ
2016/05/06 00:40

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