浮世の画家

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今年の3月30日にNHK総合で放映されたドラマ「浮世の画家」を見ました。

イシグロカズオの小説を映像化した作品で、主人公を演じるのは渡辺謙。

舞台は第二次世界大戦後の日本。時局に乗じて、戦意高揚を鼓舞する絵画を制作し名声を博した主人公の画家が、戦後の急激な価値観の変化の中で、自分が持っていた信念の在り方を思い悩んでいく過程を描いた、完全な一人称物語です。

このドラマ、日本でドラマ化しているせいもあるのでしょうが、ちょっと日系とは言え、英国人の作家が書いたとは思えない作品でした。

それと主人公の小野を演じる渡辺謙の演技が素晴らしくて、とっても堪能出来ました。

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主人公の小野は、もともとは「現代の歌麿」を目指していた大家の先生のもとで、絵画を学んでいたんですよね。デカダンスの中にこそ、真の美しさがあるという主義の師匠から学びながら、やがて日本には戦火が忍び寄ってくる。

小野は、日本人の精神を鼓舞する作品を描く事にこそ、画家が目指すべき道があるとの思いにとりつかれはじめ、師のもとを去るのです。

やがて、軍国主義の時代になると、小野は絵画の世界で名声を博す様になる。一方、享楽的な作品を描いていた作家は、国賊として扱われる。

ところが戦争が終わるとガラリと世相が代わってしまい、小野は逆に戦犯の様な扱いまでされる様になる。(でも、実は、これは小野の心の中だけの心象風景なのかもしれない。)

こういった、あれこれが、次女が結婚するまでの出来事を時間軸の中心として、小野の回顧シーン、内なる声の描写とともに語られていきます。

結構、ドラマにするのは難しい作品と言えると思うのですが、見事なドラマになっていました。

その後、すぐに原作も読みました。

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カズオ・イシグロ著 飛田茂雄訳 ハヤカワepi文庫
☆☆☆☆

イシグロカズオの作品は、全て英語で書かれているので、実際のところ、名前に漢字があてられているのはおかしいのですが、その辺は、訳者の方がイシグロ氏と相談しながら、日本人でも読みやすい様に漢字をあてていった様です。

イシグロ氏の前書きを見ると、日本の小説が英訳されたかの様な雰囲気を意識して執筆していったそうなのですが、翻訳の素晴らしさもあって違和感を全く感じずに読める作品でした。

イシグロ作品は、他に「日の名残り」「私たちが孤児だったころ」「私を離さないで」の3作を読みましたが、何て言うか、自分自身の居場所が定まっていない浮遊感、アイデンティティの在り方の模索、そんなものが、内省的にとても静かに語られていく・・という印象があり、今回もそれを感じました。

ちょっと話が代わりますが、最近「サード・カルチャー・キッズ」という概念が話題になっていて、多文化の中で生きる子供たちの生きていく場所はどこなのか?みたいな事がよく語れる様になってきました。

親の国籍が第一文化、住んでいる場所が第二文化、そしてそれらが自分の中で融合され、第三の文化を創造し、子供たちはその中で生きている・・みたいな事らしいんですよね。

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きっと、イシグロカズオさんは、そんなサード・カルチャーの世界を文学として30年以上前から発表されてきたんだろうな・・と思ったりしました。

小説も傑作です。お勧めですよ。

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この記事へのコメント

セレンディピティ
2019年06月16日 09:41
こちらにも...。
浮世の画家、ドラマ化されてたのですね。私も見たかったです!そのうちDVD化されるかな?
以前、国立近代美術館で戦争画家の作品を見たことがあるので、作品のテーマとしても興味深いです。
窓際のトットちゃんの中に、トットちゃんのお父さん(ヴァイオリニスト)が戦争中、軍歌を弾くことを請われたけれど断ったエピソードが出てきます。今聞くとかっこいいですが、生きるか死ぬかという時代にそうした行動をとることは難しいですよね...。
久しぶりに渡辺謙さんの演技も堪能したいです。
原作も読んでみます♪
ごみつ
2019年06月17日 00:25
セレンディピティ さん

こちらにもコメント有難うございます。

ドラマはけっこう前に見ていたのですが、小説を読むのがちょっと遅れて、遅ればせながら記事にしてみました。

ドラマも小説も、凄く良かったです。
ドラマ、DVDレンタルになると良いですね。NHKオンデマンドにはあると思うけれど・・。渡辺謙さんの演技、素晴らしかったですよ。

戦争画家の作品展、私も見に行きたかったな~。色々と考えさせられそうです。
藤田嗣治も戦争画、描いてましたしね。

小説は(ドラマも)、とても静かな作品です。お勧めです!

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