ペスト (小説)

コロナ禍の現在、ベストセラーになっているカミュの「ペスト」、それと「ロビンソン・クルーソー」で有名なダニエル・デフォーの「ペスト」を読みました。

「ペスト」
La Peste
アルベール・カミュ(著) 宮崎嶺雄(訳)新潮文庫
☆☆☆★★★

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アルジェリアのオラン市で、ある朝、医師のリウーは鼠の死体をいくつか発見する。ついで原因不明の熱病者が続出、ペストの発生である。外部と遮断された孤立状態のなかで、必死に「悪」と闘う市民たちの姿を年代記風に淡々と描くことで、人間性を蝕む「不条理」と直面した時に示される人間の諸相や、過ぎ去ったばかりの対ナチス闘争での体験を寓意的に描き込み圧倒的共感を呼んだ長編。(文庫解説より)

この作品の舞台は1940年代、フランス領アルジェリアのオランという市で、ここは外部と完全に遮断されてしまいます。メインの主人公はフランス人医師のリウーなのですが、その他にも中心となる人物が何人かいて、ペストが蔓延し閉鎖された極限状況の中で、彼等の行動が人間の様々なあり様について描かれていくという構成になった小説でした。

読み始めれば誰でもすぐに気が付くのですが、これは決してペストのパンデミックをメインにした作品ではありません。ただし、この物語を描くために、カミュはかなりの下調べをし、医学的、疫学的におかしなところはない様に描いているそうです。執筆には5年の歳月がかかったそうです。

この小説は、疫病という、多くの人間に死を招く突然の不条理の中で、人々が何を信じ、何を思いながら生き、何をあきらめ、どう行動していくのかがテーマとなった作品でした。

実は読み始める前は、災厄の中で不条理に死んでいく人間たちを、冷めた目線で描いているんだろうな・・と思いこんでいたのですが、この小説は一種の人間賛歌でもあり、とてもヒューマニズムに溢れた小説で、個人的にはビックリしてしまいました。

戦時中にレジスタンス活動に身を投じていたカミュならではの、「人間の連帯」というものの重要性への思想こそが、作品のメインテーマなのだろうと感じました。

中心となる人物達の物語を、「私」という人物が語っていくというスタイルなのですが、この「私」が誰であるかは、一番最後に明かされます。でも未読の方も、最初にそれをチェックしないで下さいね。そもそも、この物語の人物達とともにこの災厄を経験していかなければ、最初にそれを知っても何の意味もないのです。


「ペスト」
A Journal Of The Plague Year
ダニエル・デフォー(著) 平井正穂(訳)中公文庫
☆☆☆★★★

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一六六五年、ロンドンが悪疫(ペスト)に襲われた。逃れえない死の恐怖に翻弄された人々は死臭たちこめる街で、神に祈りを捧げ、生きのびる術を模索した。事実の圧倒的な迫力に作者自身が引きこまれつつ書き上げた本篇の凄まじさは、読む者を慄然とせしめ、最後の淡々とした喜びの描写が深い感動を呼ぶ。極限状況下におかれた人間たちを描き、カミュの『ペスト』よりも現代的と評される傑作。(文庫解説より)

この本にはかなり驚愕させられました。

デフォーは17世紀の人間です。ロンドンで1665年にペストが大流行した時には、彼は幼かったらしいのですが、その後生存者から報告を集め、この作品を小説に仕立てあげています。

とにもかくにも驚くのは、ペストに見舞われたロンドンの人間たちのとる行動が、現在と全くと言っていいほど変わっていない事です。宮廷をはじめ金持ち達は、郊外へ避難してしまいますが、その越境が郊外へも疫病を運んでしまう事になります。

ロンドン市長をはじめとした行政は、ロンドンに残って、出来る限りの処置と貧民の救済を続けるんですよね。これはカミュの「ペスト」でも描かれてましたが、ペストを恐れずにふんばって戦う人が、必ず少なからずいるんですよね。もちろんその中から犠牲者もたくさん出ます。

また逆にデマを流したり、誰かに病気を感染させて不幸の道連れにしてやろうとする患者、ペストなんて関係ないとうそぶき飲み屋でたむろして死んでいく無法者なんかもいたりと、人間社会の縮図が見えるあたりは、21世紀の現在でもまったく同じです。

デフォーはジャーナリストだったので、この報告も感染者、死者数を、地域ごとに掲載する徹底ぶりで、ホント、今とそっくりな感じですが、一つだけ現在と異なるとしたら、デフォーが経験なキリスト教徒で、このペストを神の御業と信じ、終息も神の許しととらえているところですね。

同じ事の繰り返しが多かったりするのが少し読み辛いのですが、小説黎明期の作品として考えれば上出来だと思います。

ペスト医師

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2冊を読んで思ったのは、とにかく人間っていうのは変わんない生き物だな~っていう思いでした。

ペストという病気は第1級の感染症で、死亡率がハンパじゃなかったんですよね。それに比べれば、コロナは非常に脆弱なので、人類にとっては、将来の重大なパンデミックに備えての良い経験になっているんじゃないのか・・と最近は考えたりもします。

現在は昔とは比べ物にならない位、世界中を人が行き来している。それを踏まえた上での対策を世界をあげて考える機会にするべきだろうと思います。

それと人間が活動をとめた事で起きた、自然の回復にももっと目を向けるべきだろうと思うし、人が自分自身の快適さを求めすぎた事でうまれていた弊害を少しでも減らす努力を続けていかないと、このコロナ禍で人間たちが苦しんだ甲斐がないと思ったりもしています。

2冊を読んで、そして毎日のニュースを追いながら、そんな事も考えたりしました。

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この記事へのコメント

2020年05月28日 21:59
ウイルスというと、見えざる存在なので、その正体が分からない当時のペスト発生時というのは、恐ろしい病と思われたと思います。

中世の欧州が後進国で不潔だったから、起こり得たパンデミックなのでしょうが、ペストって不潔なイメージが強いですね。あと、寒さに弱かったそうで、北欧の国々ではさほど感染は無かったとの事です。

スイスもどうだったでしょうかね。高原での暮らしは、ペストとは遠いイメージがあります。ペストを文明への仇と考えるなら、スイスのような暮らし方、高貴な野蛮人と呼称される生き方は、今でも通用する考え方だと思います。何か、地域が一番だというのは、かつては豊かでなく、都市部と分断された生き方だったでしょうが、今や農園や牧場に旅をしたり、泊まったり、豊かさを得られる世の中になりつつありました。

コロナによって、それがどう変わるかという事でしょうが、仰る通り、これは、もっと危険なウイルスへの備えとなる経験であるのかも知れません。
himari
2020年05月28日 23:53
ごみつさん
「ペスト」2作の感想を興味深く読みました。
カミュ作品の方はまずテレビ「100分de名著」で感激して。番組テキストを読んで、そして小説を読み感動しました。だから最後に知らされる「私」は小説を読むときには知っていて、そこは残念でしたが、多分読んでいくうちにうすうす気付いていたと思います。

ーーこの小説は一種の人間賛歌でもあり、とてもヒューマニズムに溢れた小説で、個人的にはビックリしてしまいました。

まさにごみつさんの仰る通り。この小説は無残に人が病に倒れる極限状態の世界の中で決して崩れない誠実さや温かさが印象的で、むしろ生きる希望を感じました。私は特にグランのエピソードが好きです。

デフォーの作品は未読で、ごみつさんの感想を読んで私も読みたくなりました。本当に人のすることは現代と変わらないのですね。
ただカミュとデフォーが違うのは、カミュはパンデミックを罪を犯した人間への神の与えた罰であることを否定して不条理な存在と捉えていること。
時代の違いももちろんありますね。その違う視点で表したパンデミックを読み比べるのは興味深そうです。
2020年05月29日 00:09
ごみつさん、こんばんは。
ペスト、どちらもおもしろそうですね。
さすがは傑作といわれるだけのことはありますね。
私も読んでみたくなりました。
1940年が舞台のカミュの小説より、1665年を舞台にしたデフォーの小説の方が現代的というのも興味深いです。
カミュのラストが気になる!
ごみつ
2020年05月29日 00:30
隆 様

こんばんは。

感染症とは瘴気で起こるものと考えられていて、顕微鏡が発明された19世紀まではそれが当たり前だった様です。

デフォーの「ペスト」の中の主人公のセリフで「空気の中に、眼には見えない生き物がいて、それが人間の体内に入り病気を起こしているという事を言いう輩がいるが、まったく笑止千万なデマである」みたいな事をいうシーンがあるんですよ。
思わず、「それが正解だから!」とつっこみました。(笑)

最も致死率の高い1類感染症の中で、ペストは唯一の細菌感染なんですよね。ウィルスは細菌よりもはるかに小さい存在なので、何にせよ、感染症は人間に最後に残された天敵ですね・・。未来永劫、戦いは続きそうです。

とりあえずロンドンはその後、大火が起きてすっかりペストは終息したそうです。ペストはネズミが感染源なので、やっぱり都市部に発生しやすいのでしょうね。都市部は人口が多いし、どうしたって三密になりますしね。
ごみつ
2020年05月29日 00:39
himari さん

こんばんは。コメント、有難うございます。
himariさんもカミュの「ペスト」読まれたんですね。私も「100分de名著」見たかったんですよね。NHKのオンデマンドで見られるかな?

そうそう、「私」の正体は読んでいるうちにうすうすとわかりますよね。どう考えてもあの人しかいないから。(笑)

私もこれほどヒューマニズムをテーマにした作品だとは思ってなかったので、意外に感じるとともに、カミュに人間性もわかっておおいに感動しました。
私もリウー以外なら、グランのエピソードが一番好きです。

デフォーのはけっこうビックリしますよ。え、これ17世紀の小説なの!?って感じです。パンデミック小説として読みたいなら、こっちの方がお勧め感あります。デフォーの時代は細菌の存在すら発見されていないので、何でも神の仕業と考えるのはいかしかたない事だったでしょうね。
ごみつ
2020年05月29日 00:47
セレンディピティ さん

こんばんは。

カミュはノーベル賞作家だけあって、事象よりも、人間の内面にスポットをあてた作品になっています。
小説としては時代も新しいですし、カミュの方が読みやすいと思います。

デフォーのは凄くジャーナリスティックなんですよ。データをもとに、克明に感染の拡大や人々の様子を描いてて、これが17世紀に書かれたとはビックリ!って感じです。

カミュもデフォーもペストの終息で終わります。
カミュは第三者的な「私」が物語を語ってて最後に正体がわかりますが、読んでるうちに「この人だな」ってわかりますよ。意外性をねらってないので気にしなくてもOKですよ~。(*‘ω‘ *)
2020年05月30日 20:27
ごみつさん☆
同じテーマの小説がどちらも興味深く読めるというのは、何気にスゴイことですよね。
私も自粛の時に沢山本を読みましたが、ペストまで手が回らなかったのが残念でした。
歴史も医学も知識も技術も発展した現代に生きる人々が、疫病に関して昔と全く変わらない対応しかできないって、本当に愚かしいデス。自分も含め。
ごみつ
2020年05月30日 23:53
ノルウェーまだ~む 様

こんばんは。コメント有難うございます。

「ペスト」時代も国も違う2作でしたが、どちらも面白かったです。

自分の命にかかわる事だから、どんな国、時代でも人のとる行動は同じになるのはわかるんですけどね。
特にペストはかかったら高確率で苦しんで死ぬか、突然死したりするんですよ。
腺ペストと肺ペストで症状が違うみたいです。

私、記事で「コロナ」は予行演習・・みたいな書き方をしましたが、後から別の記事で「コロナ」みたいなゆるい感染症の方が、社会にはかりしれないダメージを与えるって書いてあって、先行きがちょっと不安になってきたりしてます。

早くワクチン開発成功してほしいですね。
kinkacho
2020年06月01日 19:10
ごみつさん、こんにちは。
この二冊、どの本屋を覗いても平積みされてますね。古い小説でも人間の本質が変わってないから、今の状況に通じるのでしょう。
さて、近所の図書館が開館したので、例のスペイン風邪の本をリクエストしてきます。
ごみつ
2020年06月02日 02:07
Kinkacho さん

こんばんは。
コロナ以来、感染症がらみの本はよく売れてるんですが、特にカミュのペストは凄いですよ。名作なんで毎年5000部程度は増刷してたそうなんですが、今年はすでに15万部以上増刷してるそうです。(;^ω^)

図書館再開して良かったですね!「インフルエンザ」も値段のわりには売れてるので、順番まわってくるの時間かかるかもですが、私も予約しようかな。

うちの近所の図書館も予約&受け取りだけ再開しました。