源氏物語 完全版 その1

紫式部著 与謝野晶子現代訳 ゴマブックス電子書籍
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Kindleで源氏物語の与謝野晶子現代語訳が全帖まとめて無料になっていたのでダウンロード。

昔から日本の古典にあまり興味がなかったのですが、人生も終盤に近付いたし読んでみるか・・な程度だったものの、これ凄かったな。本当に読んで良かった。

まずは平安時代の風俗をこれほど見事に、当時の人間が物語として書き残したっていう事の凄さ。歴史的な資料としても一級なんではないですか?

それと11世紀にこれだけの長編小説を女性が書き残したという事の凄さ。紫式部は架空の人物を使って語る事には「人間性を描けるという価値がある」と述べているそうですが、西洋において初めての長編小説(いわゆる物語・短編はたくさんあった)とも言われている「ドン・キホーテ」に先立つこと600年前の作品です。

源氏物語絵巻より 第24帖 胡蝶 玉鬘(夕顔の娘)の社交界デビューの宴

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それと、1000年以上、現在に至るまで読み継がれてきている凄さ。これね、あまたの女流文学者の心を掴んで、都度都度現代語訳されてきた理由が読むと本当によくわかります。

何と言っても、当時の女性たちの置かれていた姿と、その内面の心情、女性女性によって異なる人生のあり様の描かれ方が素晴らしいんですよね。

加えて、平安の貴族たちの雅の表現。大河ドラマ「平清盛」を見た時にも感じましたが、貴族階級は和歌がよめて当たり前、なおかつストレートに感情は表現せず、歌の中に美しく暗喩したり象徴化させて、気持ちを伝えていく文化がベースなんですよね。現在の日本人の民族性の根っこがここにあるのか・・と思ったり。

ただこのあいまいな表現部分は、現代の読者にとっては最も読むのが難しいところで、これは現代語訳者がどう伝えてていくか、力の見せどころでもあるんじゃないでしょうか。

小林等画 第35帖 若菜下 光源氏は正月に女君たちによる弦楽四重奏の演奏会をひらく。

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まだ一度、通して読んだだけだし教養もないもんで、あんまり詳しくは語れないのですが、また別の現代語訳を読んでみようと思ってます。レアな男性訳者である谷崎潤一郎のにしてみようかな・・?男性がこの物語をどう捉えているのかが気になる。

源氏物語は全54帖からなるかなりの長編小説で、41帖までは光源氏の物語、42帖からは光源氏の息子の薫の物語になります。

手あたり次第に美人に手を出している光源氏がとうとう破滅的な問題を起こし12帖で須磨へ自ら流れていくところでくじけてしまう読者が多いらしいのですが、「え、何で?」って感じです。ここにきて、とうとう光源氏が政治的に失脚するパートなので、それまでとは違う彼の姿が見られるんですよ。

個人的には読み始めから、将来の妻となる少女、若紫を誘拐、拉致してしまうあたりが最も現代人にはきついんじゃないかなと思いました。っていうのも、光源氏があまりにも女性への執着が強く、時には強姦じみた事すらするんですよね。光源氏ってこんなにひどい奴なんだ・・って感じちゃうんですよ。次の末摘花が面白いので、ここを抜けると後は続くんじゃない?

ただ彼の良いところは、無理に関係させた女性を決して見捨てない事です。醜女である末摘花も見捨てません。他の男性に比べたらかなり優しい人だと思う。それと彼の見た目が光り輝くばかりに美しいので、襲われた方も結局夢中になってしまうんですよね。

物語に登場してくる女性たちがあまりにも非力で泣く事しか出来ないので、実のところかなり精神にきますが、考えてみれば光源氏は帝の息子なので、逆らう事なんて無理な話。女性の一生の幸不幸は男性の家柄によって決まる世の中です。

そういう世界の中で、光源氏と関係をもった女性たちがどうふるまうのか、どう考えるのか、様々な女性達の心情と運命が細かく描かれていく物語なのです。

光源氏が亡くなり息子の薫が登場してくると因果応報がストーリーに浮上してきて、光源氏がさびしく世を去ったのであろう事を伺わせるのも見事。

佐多芳郎画 第51帖「浮舟」 この絵、素晴らしいですね。ただ物語の方は、何だか気持ち悪くなってきちゃったパートです。精神に応えますよ。

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薫の宇治の物語(宇治十帖)になると、もう人間なんて諸行無常だし、女性はいつまでもきつい状況のままだよね(武士の世になったらもっときつくなる)って気持ちにもなりますが、浮舟のエピソードには紫式部の想いのたけが込められている様でホント現代小説みたいで凄かったな。最終の54帖「夢浮橋」での最後の文章、薫のセリフ「誰かが浮舟を囲っているのだろうか?」っていうこの一文の凄みにはちょっと震えました。

めっちゃ長くて世界に入り込めないときついかもですが、とにかくまずはお話が面白いので、未読で興味のある方は是非是非。この作品、悪いところが全くもってない上に文化的な教養の厚みが凄い作品なので、ブログ史上初めての満点とさせていただきました。

その2資料編へ続きます。

源氏物語絵巻[伝藤原伊房筆・伝寂蓮筆・伝飛鳥井雅経筆] (日本名筆選 46)
源氏物語絵巻[伝藤原伊房筆・伝寂蓮筆・伝飛鳥井雅経筆] (日本名筆選 46)

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この記事へのコメント

himary
2020年12月02日 11:16
ごみつさんの源氏物語の感想を興味深く読みました。
源氏物語は私もむかーし若いころ原文と訳文が併記している本で読みました。説明調の文だったためか自分も若かったためか、文学を楽しむというより物語の流れをなんとか知ったという感じでした。
そんな浅い読み方でしたが、
私は美貌と権力だけでなくなんでも人より優れていて、臣下になったために身動きが自由になって、しかも天皇に次ぐ最高位も極めてしまういい事ずくめの源氏にいまいち共感できなくて、女三宮が薫を産んだときはちょっと小気味よかったです。
薫の君も最後の言葉で、浮舟の深い決意などわかる人じゃなかったのだと思いました。他の男性貴族の描写も結構辛辣でした。
あの当時、女性が精一杯自分の人生を取り戻そうとするには仏門にはいるしか方法はなかったのでしょうね。
宇治十帖は宮廷の権謀術数から離れて、一人ひとりに焦点を当てたドラマになってますね。私は宇治川のそばに祖父母が住んでいたので思い入れがあります。京都に行くたびに懐かしくて宇治川沿いを歩くのですが、宇治川は流れのはやい危険な川で、よく浮舟が生き残れたと思います。
そんな思い入れもあってか、雑誌やテレビで源氏物語の特集があるとついつい見てしまいます。
ごみつ
2020年12月02日 22:48
Himary さん

こんばんは!
Himaryさん、若い頃に読まれた事があったんですね!

私、昔から日本の王朝文化とか貴族の雅な世界みたいなのに興味がなくて、最近になって平安時代に興味が湧いてます。大河の「平清盛」のおかげもあるかな~。

とにかく読んでみたら、「こんなに凄い作品だったのね!」と感動しちゃいました。

現代の女性にとっては、光源氏は実際のところかなりイラつきますよね。それでも、薫よりはマシだったな~。

宇治十帖はホント、きつかった。浮舟、若いし愚かな部分もあったけど、あんな目にあうのが本当に可愛そう。
薫がボンクラなんでイライラします。

そもそも薫には光の血は流れてないんですよね。で、あの匂宮は明石の君との間の娘の息子なんで、女性に対する異常なしつこさは彼が受け継いでましたよね。

薫の最後の一言には、世の男性はすべからく女性の気持ちや苦しみが理解できないのだな・・っていう絶望すら感じて凄かった。
ここでブツっといきなりこの長尺の物語を終わらせるのも、非常に現代的でした。
あと、作者が時々文章に顔ののぞかせるのも現代的だな~って感じました。

Himaryさんのおじい様おばあ様が宇治に住んでらしたんですね。それは思い入れもひとしおになりますね。
宇治川ってそんなに流れがはやいんだ~。生きた浮舟が見つかるシーンも、それまでにないドラマチックさがあって迫力ありましたね。

とにもかくにも読んでみて本当に良かったです。(*'ω'*)
2020年12月03日 12:58
ごみつさん、こんにちは。
源氏物語、そういえばちゃんと読んだことがありません。
プレイボーイの物語って、イメージだけが先行しています。^^
読みやすい訳があったら、いつかチャレンジしてみたいです。

宮中のどろどろ劇ということで
ごみつさんがお好きな「危険な関係」にも似ているような気がします。
原文のすばらしさあるのでしょうが
長く読み継がれた物語というのもなんとなく納得です。
2020年12月03日 14:10
ごみつさん、こちらにもコメントさせて頂きますね。

ドナルド・キーンさんが生前、国際的なエンサイクロペディアの編集に携わった際に「源氏物語」を人類史上初の「小説」と定義付けしようとしたら、アチラの文学者にヨーロッパ中世の「薔薇物語」の方が古い、と却下されてしまったそうです。でもキーンさんによれば「薔薇物語」はあくまで物語。人間の心理にまで踏み込んだ「小説」は「源氏」が人類史上初とのこと。
ほんとうに1000年前に書かれた小説が、これほどまでに古びずに読者を引きつけてやまないのはすごいことだと思います。

私も谷崎版と田辺版で宇治十帖は読んで陰鬱な気分になりました。とにかく薫がじれったい(笑)かといって匂宮も嫌いです(笑)
学生時代に週刊朝日で連載されていた田辺聖子さんの「新・源氏物語」にはまった時にムック本など買って読みましたが、そこでの作家、評論家の座談会(キーンさんもいた記憶)で「宇治十帖」は紫式部ではない誰か別の書き手が続編として書いたのではないかと推測されていました。その証しのひとつとして、光源氏の時代は自殺のような物騒なエピソードが一切ないのに(怨霊は跋扈していましたが)、宇治では浮舟が入水自殺を図ったことが挙げられていました。これだけに留まらず、未だに種々の議論が湧き上がるのが「源氏」が今なお日本人の中で現在形である証しだと思います。

コロナが一段落してお目にかかれたら、テレビドラマ版「源氏物語」のDVDお貸ししますね。あの時点では片岡孝夫が考えられる最高の光る君で間違いなかったと思います。
ごみつ
2020年12月04日 01:01
セレンディピティ さん

こんばんは。こちらにもコメント、有難うございます。

「源氏物語」は、ドロドロ劇ではないんですよ。ドロってるところもちょっとあるのですが(笑)、基本的には繊細な感情、雅なものを愛でる感性、宮中での四季折々の行事なんかが描かれてます。

光源氏はむかつきますよ~。憎めない人なのですが、時々許しがたいエピソードもありました。
とにかく、これが長く読み継がれているのは、「面白いから」につきるだろうと思いました。こんなに面白いとは予想だにしてなかったので、驚きました。(;^ω^)

そうだ!「危険な関係」も原作読まなきゃ!これも、メチャクチャ大好きです。(笑)

ごみつ
2020年12月04日 01:11
夏 さん

こちらにもコメント有難うございます。

今回、ちょっとしたきっかけで源氏物語を全帖読みましたが、よもやこれほどの作品とは思いもしないまま、50年以上生きてきて恥ずかしいですが、今、この年齢だからこそ味わえる良さもあった様な気もしてます。

それにこれほどの作品が1000年も前に書かれてたなんて凄い事だと思います。~物語みたいなのは、もっともっと前からありますが(それこそイソップ物語とか)、小説って言うのは人の心理を描いてこそなんですよね。

それにしても宇治十帖が他人の筆かもしれない説、何となく納得は出来ますね。光源氏の物語とは明らかに異質になりますもんね。
個人的には、ここで紫式部自身が腹に抱えていた鬱積みたいなものを爆発させたのかな・・なんて思ってましたが、そうか作者が違う説もあるんですね・・。確かに重かったもんな~、宇治十帖。

片岡孝夫さんの「源氏物語」楽しみにしてますね。早く、コロナ、いなくなれ~~。($・・)/~~~
lingmu
2020年12月06日 23:46
ごみつ様

私も与謝野晶子版で読みました。むかしは、現代語訳があまりなくて、与謝野晶子版がいちばん読みやすいと言われていました。

高校の時に読んでつまらなかった(というより、よく分からなかった)のが、ずっと年を経てから再読したら、とても面白くて、その後橋本治の「窯変源氏物語」を読みました。これが素晴らしかったです。

これは、現代語訳ではなくて、橋本治が光源氏におのれを語らせるという形の、創作だと思います。

ですから、橋本治ならではの解釈が時々顔を出し、宮廷政治や身分関係やら、その他もろもろの説明も詳しくて、また、日本語の美しいこと。

「源氏物語」だけでは、なんとなく掴みにくいところもある源氏以下の登場人物の心理も、より理解できるような気がします。

でも、その長いこと! 14巻あって、若菜下と柏木だけで1冊、なんですよ。
一度「源氏」を読んでから読むのがいいと思うので、絶対オススメです。
ごみつ
2020年12月07日 00:09
lingmu 様

こちらにもコメント有難うございます。

「源氏物語」堪能したのですが、もう一つくらい別の現代語訳を読もうと思ってました。

ご紹介の「窯変源氏物語」とても面白そうですね!でも、確かに全14巻とは長いな~。電子書籍があればと思いましたがないんですね。

最近、吉川英治の「新平家物語」を全巻入手したばかりなので、ちょっと時間置いて、是非トライしてみようと思います。

いや~、それにしても時間がいくらあっても足りませんね~。( ̄▽ ̄;)

ご紹介有難うございます!
lingmu
2020年12月09日 10:31
ごみつ様

昨日NHKTVで、藤原定家による源氏物語の写本が去年新発見されたことについてやっていました。定家が写本を作ってくれていなかったら、完全な姿の源氏は今まで残っていなかったそうですよ。

定家は、宇治十帖も紫式部が書いたと信じていたそうですが、最近のコンピューターによる数学的分析によると、宇治十帖を別の人が書いたとは、結論できないそうです。

源氏本編と宇治十帖の全ての語彙とその使われ方を分析した結果、そういう結論になったそうです。

本編と宇治十帖は、内容も雰囲気もずいぶん違いますが、その間どのくらいの時を経たのか、作者自身の思いも、かなり変化したのではないでしょうか。
ごみつ
2020年12月10日 00:57
lingmu 様

こんばんは。

あ~、そうそう!NHKの藤原定家の番組、見逃し無料配信(NHKプラス)で見れそうなので見てみるつもりでした。楽しみです!

私も宇治十帖は紫式部が書いたものだと思いたいな。確かにストーリーの毛色はガラリと変わるけど、この宇治十帖っていうパートは、彼女の胸の中の思いみたいなのが、ダイレクトに表現されたパートなんだな・・と感じたんですよね。

あの時代にここまでの表現が出来たっていう凄さ。やっぱり彼女自身が書いたのではないかな~?

ただこれは証明が難しいでしょうね。(・_・;)
lingmu
2020年12月11日 23:16
ごみつ様

NHKの番組、是非見てくださいね。

テレビと言えば、wowowの『大明皇妃」が昨日で終わってしまいました。
このところ、木曜日の大きな楽しみだったので、ちょっとロスの気分です。
内容、キャストの演技、美術、撮影、そして魅力的な登場人物、みんなとても良かったです。

DVDが発売になったようです。そのうち、是非見てくださいね。
ごみつさん、きっとハマっちゃうと思います。

あと、この間までBSイレブンの「月に咲く花のように」という中国ドラマを楽しく見ていたのですが、これも終わっちゃいました。

これは、清朝末期の女性の商人の話なんですが、主人公が破天荒かつかわいいというキャラクターなのが面白かったです。そうそう、ピーター・ホーも出ています。割と早めに退場しちゃううんですが。

それでいまは、BSイレブンの「明蘭 才媛の春」というのを見ています。
これは、北宋の時代のある女性の生き方を主に描いているドラマで、なかなか面白いですよ。中華の雰囲気も味わえるし。

今テレビでやっている中華ドラマは、ワイヤーアクションあり美男美女のロマンスありのファンタジーばっかりかなと思っていましたが、よく探せば、まともなドラマもあるんですね。


ごみつ
2020年12月12日 02:03
lingmu さん

こんばんは。

NHKプラスの藤原定家、これから見ようかなと思ったら無料配信が終わってしまってました!(;_;)
再放送はもうなさそうだから、NHKオンデマンドで見るしかないかな~。

ドラマ、色々とご覧になってますね。
「大明皇妃」は主役がタン・ウェイなんですね!(「ラストコーション」の)これは見ごたえがありそうです。舞台が明朝初期なのも興味津々です。絶対に見てみますね。

他のもどれも面白そうです。

私は、今DVDレンタルで「大秦帝国 昭王」をゆるりと見てます。宮廷劇中心ですが、やっぱり面白いです。
ちょっと前にドラマ「趙氏孤児」を見ていたのですが、ちょっと見れない日が続いてる間に配信終了してしまいました。(泣)再度の配信を待つか、最悪DVDレンタルするつもり。

ついでにこれまたちょっとづつ楽しんでた「8時だよ全員集合」も終わってしまい大変なショックを受けています。(笑)

今は毎週欠かさず見てるのは大河の「麒麟」だけかな。もっと色々と見たいんですけどね~。

また面白いのがあったら是非教えて下さいませ~。!(^^)!