ザリガニの鳴くところ
Where The Crawdads Sing
ディーリア・オーエンズ著 友廣純訳 早川書房刊
☆☆☆☆

ノース・カロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。6歳で家族に見捨てられたときから、カイアは湿地の小屋でたったひとり生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女のもとを去ってゆく。以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく…みずみずしい自然に抱かれて生きる少女の成長と不審死事件が絡み合い、思いもよらぬ結末へと物語が動き出す。全米500万部突破、感動と驚愕のベストセラー。(BOOKデータベースより)
幼い時に家族に見捨てられ、たった一人、広大な湿地で生きたきた少女カイア。彼女は「湿地の少女」と呼ばれ、住民たちからは軽蔑の目で見られていた。
最初は6人いた家族だったが、傷痍軍人で依存症になっていた父親の暴力により、一人、また一人と家を出ていってしまい、ついには父親も出て行き、幼いカイア一人が湿地に残された。
それでも彼女は湿地と湿地の自然を愛し、この地に生きる生き物たちとの生活に満足していた。
そんな彼女も美しく成長する。しかし愛してくれていると思っていた男性に裏切られ続け、完全な人間不信になる。少しでも心を許していたのは、昔から優しくしてくれた雑貨屋の黒人の老夫婦だけ。
そんなある日、彼女がつきあっていたチェイス・アンドルーズが不審死を遂げる。カイアはその容疑者となってしまうのだが。
こういうストーリーで、基本的にはミステリーです。なので、あまり詳しくは書けないのですが、この作品が素晴らしいのは何もそのWho Done It? 「誰がチェイスを殺したか?」だけではないのです。
背景にあるのは、ホワイトトラッシュへの差別、人種差別、男性による女性への暴力の問題、湿地の自然破壊の問題、そして孤独に生きてきた一人の女性の内面の葛藤や心の成長の描写の厚みが凄い事にあり、読後の印象はミステリーを読んだというものではありませんでした。
著者のディーリア・オーエンズは、その道では著作や論文を発表していた動物学者。69歳の時に、大好きだった小説を執筆。1作目がこの作品で、アメリカでは瞬く間にベストセラーとなったそうです。
↓ 作品に出てくる湿地は、ヴァージニア州とノース・カロライナ州にまたがるディズマル湿地だそうです。

人間とはこの世界のある1種の動物にすぎない。それは確かだけれど、人間には他の動物は持っていない様々な能力がありこの地球の支配者となっている。
でも考えてみて欲しい。私たちは時々、いや頻繁に動物になっていないだろうかと。消そうと思っても消せない本能的な自然が脳の中にある。
キツネの母親は過度のストレスにさらされると、自らを守るために子供を捨ててしまう。カマキリのメスは交尾中の雄を頭から食べ始める。ケガを負った七面鳥は、まわりの仲間から死ぬまで攻撃される。
アルファ雄はその存在だけで他の個体の上に君臨するが、それを持たない雄は過度の装飾により個体としての魅力を補おうとする。
そしてそれらは自らが生き残り、自分の子孫(DNA)の残すために必要な事でもある。
読後に私が非常に感嘆したのは、このミステリーを俯瞰すれば、それは人間という一個の生物の物語であったのだと理解出来たところにあった事と、それゆえに感じた人間の哀しい姿にもありました。
「ザリガニの鳴くところ」、手付かずの真正の自然とは、人間にとっては恐ろしい場所なんだな・・、そしてこの地球における人間の存在のいびつさも感じたりします。
そんな細かい事は考えなくても、ミステリーとしても秀逸でお勧めです。文庫になった時にでも是非是非。

カラハリ―アフリカ最後の野生に暮らす - オーエンズ,マーク, オーエンズ,ディーリア, さやか, 小野, 紀子, 伊藤
ディーリア・オーエンズ著 友廣純訳 早川書房刊
☆☆☆☆

ノース・カロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。6歳で家族に見捨てられたときから、カイアは湿地の小屋でたったひとり生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女のもとを去ってゆく。以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく…みずみずしい自然に抱かれて生きる少女の成長と不審死事件が絡み合い、思いもよらぬ結末へと物語が動き出す。全米500万部突破、感動と驚愕のベストセラー。(BOOKデータベースより)
幼い時に家族に見捨てられ、たった一人、広大な湿地で生きたきた少女カイア。彼女は「湿地の少女」と呼ばれ、住民たちからは軽蔑の目で見られていた。
最初は6人いた家族だったが、傷痍軍人で依存症になっていた父親の暴力により、一人、また一人と家を出ていってしまい、ついには父親も出て行き、幼いカイア一人が湿地に残された。
それでも彼女は湿地と湿地の自然を愛し、この地に生きる生き物たちとの生活に満足していた。
そんな彼女も美しく成長する。しかし愛してくれていると思っていた男性に裏切られ続け、完全な人間不信になる。少しでも心を許していたのは、昔から優しくしてくれた雑貨屋の黒人の老夫婦だけ。
そんなある日、彼女がつきあっていたチェイス・アンドルーズが不審死を遂げる。カイアはその容疑者となってしまうのだが。
こういうストーリーで、基本的にはミステリーです。なので、あまり詳しくは書けないのですが、この作品が素晴らしいのは何もそのWho Done It? 「誰がチェイスを殺したか?」だけではないのです。
背景にあるのは、ホワイトトラッシュへの差別、人種差別、男性による女性への暴力の問題、湿地の自然破壊の問題、そして孤独に生きてきた一人の女性の内面の葛藤や心の成長の描写の厚みが凄い事にあり、読後の印象はミステリーを読んだというものではありませんでした。
著者のディーリア・オーエンズは、その道では著作や論文を発表していた動物学者。69歳の時に、大好きだった小説を執筆。1作目がこの作品で、アメリカでは瞬く間にベストセラーとなったそうです。
↓ 作品に出てくる湿地は、ヴァージニア州とノース・カロライナ州にまたがるディズマル湿地だそうです。

人間とはこの世界のある1種の動物にすぎない。それは確かだけれど、人間には他の動物は持っていない様々な能力がありこの地球の支配者となっている。
でも考えてみて欲しい。私たちは時々、いや頻繁に動物になっていないだろうかと。消そうと思っても消せない本能的な自然が脳の中にある。
キツネの母親は過度のストレスにさらされると、自らを守るために子供を捨ててしまう。カマキリのメスは交尾中の雄を頭から食べ始める。ケガを負った七面鳥は、まわりの仲間から死ぬまで攻撃される。
アルファ雄はその存在だけで他の個体の上に君臨するが、それを持たない雄は過度の装飾により個体としての魅力を補おうとする。
そしてそれらは自らが生き残り、自分の子孫(DNA)の残すために必要な事でもある。
読後に私が非常に感嘆したのは、このミステリーを俯瞰すれば、それは人間という一個の生物の物語であったのだと理解出来たところにあった事と、それゆえに感じた人間の哀しい姿にもありました。
「ザリガニの鳴くところ」、手付かずの真正の自然とは、人間にとっては恐ろしい場所なんだな・・、そしてこの地球における人間の存在のいびつさも感じたりします。
そんな細かい事は考えなくても、ミステリーとしても秀逸でお勧めです。文庫になった時にでも是非是非。

カラハリ―アフリカ最後の野生に暮らす - オーエンズ,マーク, オーエンズ,ディーリア, さやか, 小野, 紀子, 伊藤
この記事へのコメント
なかなか読み応えのある小説のようですね。
お話をうかがって、ぜひ読んでみたいと思いました。
私はかつてヴァージニアに住んでいて、ノース・カロライナにもドライヴなどでよく行く機会があったのですが、ディズマル湿地のことは知りませんでした。
調べてみたら、かつて住んでいたところからもかなり近いですが、どうして知らなかったんだろう。。。
そんなわけで、ますます親近感を強めています。
まだ文庫は出ていないのですね。
でも待ちきれなくて読んじゃうかも。
いつも興味深い本をご紹介くださり、ありがとうございます☆
うわ~これ面白そう!
ミステリーの体で人間の欲とか業とかを焙り出すような物語は大好物です。
映画になったらまた面白そうですよね☆
写真の湿地帯は、もはや湖ですね・・・美しい自然は人間との共存を拒むのか?本能的な自然が脳の中にある~~興味深いデス。
いつか読んでみたいわ☆
こんばんは。
この作品、あまり深い事を考えなくても普通に面白かったのでお勧めです。今年の「このミス」の2位に選ばれました。
この小説自体は舞台がノース・カロライナなんですが、モデルになった湿地はヴァージニアとまたがってると知って、もしかしたらセレンさんはご存知の場所かな?なんて思いながら記事作ってました。
湿地はなかなか観光とかで訪れる人も少ないでしょうし、知る人ぞ知るって場所なのかもですね。
それにしても、わりと近くにお住まいだったとは!
図書館ででも借りられそうなら是非是非。(*‘∀‘)
こんばんは。
この小説、ミステリーなのですが、どちらかと言うと人間ドラマ中心って
感じでした。でも面白かったですよ。
この小説を、きちんと原作通りの雰囲気で映像化するのはかなり難しそうです。でも、たぶん映画になると思いますよ。今から楽しみです。
記事の終盤の文章は、抽象的で何が言いたいのかわかりづらいと思いますが、ネタバレ出来ないのでこんな文章になっちゃいました。(;^ω^)
この湿地は海とつながってて、凄く広大っていう設定でした。運河があって、みんなボートで移動してるのね。こういうあたりも映像化が楽しみです。